青山陽一 『Ah』('97)
b0061611_1159414.jpgパラダイス・ガラージ豊田道倫さんが解説を書いているということを知り気になったので、角田光代さんの新刊文庫『ぼくとネモ号と彼女たち』を買ってみた。19歳のフリーターの男の子がバイト代で手に入れた中古車シビック“ネモ号”で、ちょっと変わった女の子たちを乗せてあてのない旅に出る(呆れるほどはしょってます)という、ロードムーヴィーならぬロードノベル。こういうのはほとんど無条件に惹かれるし、ちょっぴり青臭くて切なくてほろ苦いストーリーもバッチリ僕好み、さらに角田さんの男の心理分析の正確さに驚愕しつつ、一気に読み終えた。読書BGMは、昨日の夜からコンポのCDトレイに入ったままのボブ・ディラン『ブロンド・オン・ブロンド』を1周半、物語中にウィーザーの名前が出てきた(他には、ベック、ペイヴメント、スマパン、ウータンクラン、オアシス)ので随分久しぶりにウィーザーの1stを1周、そして、なんとなく聴きたくなり青山陽一『Ah』。アルバムラスト曲「COUNTRY ROAD」が終わる10秒くらい前に読了、ほぼ完璧な時間配分だ。ちなみに、この『ぼくとネモ号と彼女たち』は、97年に刊行された単行本『カップリング・ノー・チューニング』が改題されたものだそうだ。後で気付いたのだが、何気なく選んだはずの『Ah』も偶然か必然か97年の作品だった。



b0061611_120104.jpgという流れで、青山陽一さんの4thアルバム『Ah』について語りたいと思う。まずは八木康夫さん作の迫力のジャケット画を見て欲しい。青山さんの永遠の大学院生みたく爽やかお兄さん的ルックスとは裏腹に、全体的にドス黒くくすんでいて変にリアルでちょっと怖い。いくらメガネ男子愛好家でも、この絵を見て萌える人はそうはいないだろう。ジャケットの重苦しい雰囲気は、そっくりそのままアルバムの印象に繋がる。どの曲を聴いても、僕が見える景色は今にも雷が落ちてきそうなドス黒い肉厚の曇り空。とにかくやたら黒いのだが、それはつまりブルースだということ。もともと青山さんの音楽は表面上はポップでも隠し味としてさりげなくブルースを忍び込ませているのだけど、ここではブルースがいつもよりムクムクと前面に出てきて今にもポップを追い抜かんとする勢い。うん?いや、ブルースじゃないな…“ブルーズ”だな、なんとなくそっちの方がしっくりくるような気がする(実際、「紅茶ブルーズ」って曲もあるし)。単にスとズの違いだけなのだが、スに濁点が付いてズとなるように、ブルーズはブルースよりもヌメリ気があって濁った泥水のような質感を持った音楽という漠然としたイメージが自分の中にあって、『Ah』の楽曲はそれにぴったり当てはまる。それと、ブルーズと言えばギターだが、なんかもう強烈な音なのよ。鈍器のような音というのかな、ぶっとくて重量感があってネチっこいけど殺傷力抜群、生々しくてただならぬ色気もあって、とにかくスゴイんだよ。前作『One Or Six』ではBM'sに桜井芳樹さんという凄腕ギタリストがいて、青山さんはちょっと遠慮気味にギター弾いていたかもしれないけど、ここでは桜井さんが抜けてギタリストが青山さんだけになり、思う存分弾き倒した結果鳴り響いたのがこの音。まったく恐ろしいギタリストだよ、青山さんって人は!

エロチックサスペンス、『Ah』を聴いているとそんな言葉が頭をよぎる。触れちゃいけないと分かっていても触れてみたくなる妖しげで危なげなオトナの情事…。何気ないことを歌っていても、ひょっとして裏に何かあるんじゃないか?いや、絶対あるに違いない。いちいち深読みしてしまう。「SPIDER(from outa space)」に“この世界で良く言えば孤高の詩人”という一節があるが、まったくその通りだと思う。今までも今でもこらからも愛だ恋だを歌うシンガーがほとんどで、その方が手っ取り早く感情を込めやすい。でも、青山さんはそれをやらない。「ラブソングなんて恥ずかしくて歌えない」なんてことをインタビューで答えているのを読んだことがあるけど、確かに青山さんの歌は敢えてそこから離れようとしている印象がある。照れゆえの屈折。それなのに、青山さんの歌には多くのラブソングよりもはるかに色気があってロマンチックなのはどういうことなんだろう?ひょっとして、そんなことを言いながら、青山さんって実は愛だ恋だのの深層心理を歌ってるんじゃないか?例えば、恋愛において、僕らこんなに愛し合っていてラブラブなんだよと他人に見せびらかしたい自慢したい部分があれば、一方で、何が何でも絶対に知られたくない二人だけの秘密っていうのもあるわけで、青山さんは後者をひたすら歌ってるような気がする(「内密にね」なんて曲も)。真っ当なラブソングよりもっと恥ずかしい、人生の恥骨を歌うシンガー、それが青山陽一なのだと思う。…て、こんな訳の分からんことを言ってる僕は、完全に青山さんの魔術にかかってしまっているのだ、Ah。

  だいぶ暑いけど悪気はないから
  ソフトクリーム 白い肘をつたって落ちる
               (「曲がる曲がる」)
[PR]
by kesuike6 | 2006-01-19 12:01 | ALBUM(SINGLE)
<< 今日の逸曲〈4〉 コモンビル 『(この内容)C.... >>