斉藤哲夫 『グッド・タイム・ミュージック』('74)
b0061611_3361887.jpg俺ってビートルズ好きなんだなぁ、なんてことを思うのは、意外と本家オリジナルを聴いているときよりも、ビートルズの香りが芳しいこんなレコードを聴いているときだったりする。斉藤哲夫『グッド・タイム・ミュージック』。随分前から探していたのだけど、つい最近ひょっこり顔を出してくれた。たぶんすっかり顔がニヤけてたと思う、すごく嬉しかった。「君の街に春がくる」「まだ春遠い」「南部春待ち疲れバンド」というタイトルからもうかがい知れるように、暖かい春を待ち焦がれる今の季節にぴったりな作品だ。きっと音楽の神様がこの時期に出会うようにわざわざセッティングしてくれたんだろうな。あ、どうも、ありがとう。



4、5年前にBSでやっていた『喫茶ロックコンサート』で、ライヴの合間に挟み込まれたかわいい女の子が喫茶店でぼんやり佇む映像の背後でかすかに流れていた、タイトルも誰が歌っているのかも知らないある曲が僕の心にヒットし、頭の片隅でずっと気になっていたのだけど、昨年ひょんなことでそれが斉藤哲夫さんの「グッド・タイム・ミュージック」だということが判明した。長年の謎がついに解けた清々しい気分と共に、これも何かの縁、アルバムを絶対に買おうと決意した。早速調べてみると、どうやらCD化されているらしい(只今、廃盤だが)。でも、この曲はこの音はどうしてもアナログ盤じゃなきゃいけない、ブツブツ鳴るノイズ混じりに聞こえてくるのがこの曲にふさわしい、そんな気がした。きっとその変なこだわりが出会いを今まで引き延ばしたに違いないが、実際レコードでブツブツ鳴るノイズ混じりに聞こえてきた「グッド・タイム・ミュージック」はやはり格別だった。イントロの危うげで切ないアカペラハーモニー、まさしくグッド・タイム・ミュージックな懐かしくて人懐っこく、でも、やっぱり物憂げなメロディー、それだけでも十分に名曲だけど、それ以上に哲夫さんの熱唱にグッときてしょうがない。最初は穏やかでも徐々にギアが入っていき、そのうち音程も外れ始め、最終的にはほとんど叫びに近い、魂の歌。“あなたの精一ぱいの人生の歌を聞かせて”と喉を振り絞って必死こいて歌っている、僕は泣かずにはいられない。僕の中では、「グッド・タイム・ミュージック」はアル・クーパー「ジョリー」と双璧だ。

このアルバムは確かに「グッド・タイム・ミュージック」がハイライトではある、実際に僕の買ったレコードはこの曲が最もノイズが多い。でも、他にも魅力的な曲でいっぱいだ。斉藤哲夫さんはデビュー当時、その強いメッセージ性から“若き哲学者”なんて言われたそうで、未だにフォーク畑の人というイメージがあるかもしれないが、この作品はフォーキーではあるけど決してフォークではない。アーシーで男っぽいバンドサウンドにブリティッシュな捩れたメロディー、中期以降ビートルズ的ポップロック。冒頭でも言ったけど、この作品には本当にビートルズの影響が至る所に見られて、コーラスやストリングスの雰囲気だったり、B面の小曲メドレーはまさに『アビー・ロード』風だし、同じ曲で始まり終わるのはきっと『サージェント・ペパーズ~』からアイデアを拝借しているのだろう。僕はもう楽しくてたまらない。もちろんこの素敵なポップ感覚は哲夫さん自身に元々あったものに違いないけど、それをいい具合に引き出したのはおそらく白井良明さんなのだろうと思う。また、瀬尾一三さんのアレンジも歌と装飾のバランスが絶妙で見事だし(特に「MR.幻某氏」のメロトロン!)、チト河内グループのグルーヴィーな演奏もすこぶる心地良い。おまけにクレジットには無いけど山下達郎さんもコーラスで参加しているそうだし、そうやって素晴らしい才能に素晴らしい演奏家が集まって素晴らしい音楽が生まれる、そんな当たり前の流れが川のごとく実に自然に起こっている。なんか嬉しくもあり、羨ましくもあり。いい時代のいい音楽『グッド・タイム・ミュージック』は70年代を代表する一枚であることは間違いない、はっぴいえんどとシュガーベイブだけ聴いて満足した気になるのはあまりに勿体ないよと若い人たちに声を大にして言いたい!

・・・などと、思わずオッサン的発言をしてしまったけど、日本中の26歳の中で僕みたく哲夫さんのレコードを見つけてワーキャー喜んでる人は果たしてどれくらいいるのだろう?

※このレコードを買った日は、たまたま見つけたので松尾清憲さんのシングル盤「愛しのロージー」も購入した。偶然か必然か、両作品とも白井良明さんが関わっていて、しかも、ヨシンバのメンバーがサポートしたこともあるアーティストだということに後で気が付いた。
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by kesuike6 | 2006-01-26 03:33 | ALBUM(SINGLE)
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